FM三重『ウィークエンドカフェ』2014年4月5日放送

毎年、4月の第1土曜日と翌日曜日は、東員の人々にとってとても大切な日。
上げ馬神事で有名な『大社祭(おやしろまつり)』が、猪名部神社で行われるからです。
『大社祭』では、みくじ式で選ばれた16歳・17歳の若者が乗り子として、晴れの日を迎えます。

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今回お話をうかがったのは、猪名部神社の宮司、石垣光麿さん。
日本全国で馬にまつわる祭りは、239あるそうですが、『上げ馬神事』は、全国で2か所でしか行われていません。
それが猪名部神社と、お隣の町にある多度大社です。
「どちらも地域の皆さんが大切に大切にこのお祭りを守ってこられたのです。」と石垣さん。

そして、石垣さん自身も16歳の時、『上げ馬神事』の乗り子に選ばれました。
宮司の家から乗り子に選ばれるのは初めてのことだったそうですよ。

■『大社祭』の歴史

もともとは追野原というところで、笠がけや鼓を越えるなどの馬術を競っていたところ、郡司であった員弁三郎行綱が流鏑馬を行ったのがはじまり。

ある時、その員弁三郎行綱が謀反をおこして夜討ちをかけ、伊勢の守護を滅ぼしたという疑いをかけられ、捕らえられてしまったんです。
実際は鈴鹿の若菜五郎という者が夜討ちをしたとわかり、員弁三郎行綱は解放されて、土地も戻されました。
それを祝って始められたのが『上げ馬神事』だと言われています。
夜討ちが1203年と残されているので、『大社祭』は800年以上の歴史がある伝統行事だと言えます。
『上げ馬神事』は、平坦な道を人馬一体となって、坂を目指して走ります。
その坂を上りきった最後に壁が待ち構えていますので、それを駆け上がる。

装束である花笠は華やかに見えますが、それがヘルメット替わりとなり、頭を完全に守っています。
そして矢箱は背中を守っています。
さらに腹帯、さらしについても完全防備で、昔の方が考え抜いた装束なんですね。

■乗り子は青年会に支えられ、1週間前から共同生活

松ノ木、長深、北大社、南社、4つの地域から騎手は6人。
一日目は12頭、2日目は6頭が神事を行います。

4つの地域には、それぞれ青年団があり、16歳から23歳までの若者たちで構成されていてます。

春休みに入ると乗り子は、親から離れて区民館に入り、1週間ほど自分たちだけで共同生活をします。
毎日、員弁川で身を清めて凝りを取って、朝夕と神社にお参りをして・・・これが代々のしきたりです。
食事は青年会の若い子が作るので、砂糖と塩を間違うこともありますが、それもまた思い出で(笑)。

乗り子だけでなく、青年団もまた、このお祭りのために1年かけて準備を行っています。
毎月の神社へのお参り、乗り子たちの花笠や衣装の準備、員弁川でのみそぎも。現在は、4つの地域で100人ほどの人が青年会に入っています。

馬主さんも、祭りの日だけではなく、ずっと馬を飼ってくださっているのですから、これは大変なことだと思います。
毎日のエサのこと、散歩のこと、いろいろありますからね。

この町の歴史や祭りについて授業することになり、学校で馬に乗ったことがあるかと聞いたところ、面白いことに、だいたいの子が乗ったことがあると。
ほとんどはポニーですが、東員町は『馬の町』ということで、公園で乗馬体験するなど、小さな頃から町を挙げてそういった環境を作っているんですね。
こういった経験が、自然と馬の神事につながって行くのだと思います。

■昔からの住民と新しい住民が手を携えて

4つの地域の1つ、新興住宅地を抱える松ノ木地区は、その団地に住む青年たちも仲間になってくれています。
新しい団地の方がうまく打ち解けて、いっしょに祭りを盛り上げているんですね。
実は松ノ木地区では、ここ4連続、団地の子が騎手を務めています。
これは本当に素晴らしい。
伝統を全く知らず入って来た人が、伝統を受け継いでくれるのは、本当にうれしいです。

団地の子に参加してもらうことになった最初の年の話です。
少子化で子どもが少ないということで、自治会長が団地の中で高1のお子さんがいる家にお邪魔して、
「大社祭では高校1〜2年の中から乗り子を選ばなきゃならない。そちらのお子さんに引き受けてもらえないだろうか」
と話をしたところ、その家のお母さんが、
「そんな名誉なことをうちの子どもにさせてくださるんですか!ぜひ乗せてください!」
と言ってくださり、自治会長さんが腰を抜かしたそうです(笑)

■すべての決断を自分自身でする、乗り子は孤独

上がって来た時の乗り子さんの表情は素晴らしいです。
やり遂げた達成感と感激で、涙を流しているんです。
それを見守る我々、地域の人たちも目頭を熱くして眺めています。
そこでまた一体感が生まれ、地域がまとまります。

地域の団結が強いからこそ、『大社祭』は今まで続いているのでしょうね。

乗り子は『大社祭』を迎えるために、朝5時から練習があり、また、地域の各組に分かれての練習と応援も行われます。
乗り子さんは、みんなから応援され、声をかけられての大役です。
しかし孤独です。
力坂にかかったら鞭を入れろとか、たくさんの人からいろんなアドバイスを受けますが、実際に決断するのは自分。自分しかできないんです。

そんな経験をするからか、乗り子をやり遂げた子は、人が変わります。
たくましくなりますし、ぶつかっても何も言わなかったような子が、きちんとあいさつするようになるんです。
まわりの支えがあっての自分、ということがわかるようになるんでしょうね。

南大社の流鏑馬馬場で流鏑馬をを終えると、すべての地域が神社に集結。
午後6時半から行われるお手打ち式は、なんとも言えない思いが高まります。一番感動する瞬間ですね。
ここ数年、一緒に涙を流して、一緒に手打ちの『おっしゃんしゃん』に参加する方が増えています。

ぜひ、みなさんも『大社祭』に参加して、一緒に『おっしゃんしゃん』しましょう。

※『おっしゃんしゃん』・・・手打ちの儀式。または手打ちそのもの。




●大社神社

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本殿

全国的にも珍しい、前方後円墳の上に祀られる神明造の社殿。
猪名部氏は、兵庫県から奈良に移り、東大寺・大仏殿建立の総指揮を司った豪族で、そのため、建築技術、器用さの神として崇拝されています。


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神楽殿

神楽殿の内外には馬霊碑や大絵馬、神馬像などが祀られています。

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厩舎

『大社祭』の『上げ馬神事』を前に、清らかに調えられた厩舎。